娘と生きる不登校な時間

娘から笑顔が消えた。いじめ、不登校、精神崩壊、転校、リストカット、性犯罪。生きる意味に疑問をもつ娘に、自信と笑顔を与えたい。二人三脚で難関大学受験に挑むシングルマザーの記録。

┝06.中学受験当日と合格発表 二人三脚母子家庭の挑戦

変わらない現実と中学への期待

 

小さな味方の存在

緊急保護者会があった日の夜

塾から帰ってきたミノリは

 

少し遅めの夕食を食べながら

いつもと変わらず

少し高めのテンションで

 

今日私が保護者会に行っていたのを

まるで忘れているのかのように

明るく振る舞うのでした。

 

ミノリ、学校行ってきたよ、保護者会。

 

私がそう言うと

一瞬で不安げな表情に変わり

 

どうだった?

 

と、私の目をじっと見つめました。

 

実はその日の朝

ミノリと一緒に登校するために

私が支度をしていたら

 

ママ、今日はもうひとりで行く

 

そうミノリが声をかけてきました。

 

えっ?!

私は準備の手を止め

ミノリの顔を見ました。

 

まさか昨日

私が学校について行ったことで

何かあったの?!

 

そんな不安が頭をよぎった瞬間

察したように

ミノリは少し微笑みながら

こう言いました。



ちがうちがう

もう私、ひとりで大丈夫だから。

何言われても構わない。

なんかそんな気がするから

今日はひとりで行ってみるよ。

ママはお仕事してていいからね。

 

 

私の仕事への気遣いなのか

それとも

ミノリの気持ちに

何らかの変化があったのか・・・

その言葉や表情から

正確なところは読み取れないけれど

 

正直、私も

急に仕事を休むことになり

それをいつまで続けるべきか

収入的に不安ではあったので

ミノリの気持ちに

賭けてみることにしました。

 

わかった。

でも何かあればすぐに

早退させてもらうんだよ。

お迎えに行ってもいいからね!

 

そうして送り出したミノリは

早退することなく学校で過ごし

無事に帰ってきました。

 

もちろん学級内の状況は変わるはずもなく

変わったのはミノリの強さでした。

 

一人じゃない。

私はそんな小さなお守りになれたようで

少しだけ安心しました。

 

たった1日一緒に学校へ行っただけで

何かが変わるなんて

そんな甘い話はないと思います。

 

ミノリにとっても

それは小さなきっかけに過ぎず

今日たまたま何もなかっただけ。

まだ何も解決したわけではありません。

 

ただ、私たち親ができる事のいつどこに

小さな変化や勇気を与えられる可能性

潜んでいるのか分からないからこそ

 

手探りの小さなきっかけの積み重ね

とても大切なものなのかもしれない。

絶対に急がず、期待しすぎず。

そんなふうに思いました。

 

それなのに

小さなお守りを胸に

頑張って学校生活に挑もう

としているミノリに

 

保護者会で

何も解列策が得られなかった現実

理想から手を引こうと思っていること

 

まして

 

もう学校へ行く必要はない

なんて言ってしまって良いものか…

と、迷いました。

 

でも信頼関係のもとに

嘘やごまかしがあってはいけない。

すぐにそう思い直し、私はミノリに

保護者会での一部始終を話しました。

 

もちろん、決して誰かを

責めるような言い方にならないよう

細心の注意を払いました。

 

全てを聞いたミノリは

納得したように言いました。

 

〇〇君(主犯格の子)が

お母さんに暴力をふるってるのは

聞いたことがある。

それに先生が家庭訪問したとき

包丁を持ってきて

『帰れー!!』って

追い返したらしいよ。

だから他の保護者が注意したって

聞かないんじゃないかな〜。

 

それに担任の先生もね…

あれはもうダメ。嘘つきだもん。

みんな知ってる。

もう何言ったって誰も信じないよ。

 

子どもの方が

現実をしっかり見ているなぁ

と思いました。

ミノリは続けて言いました。

 

けどさ、とりあえず私

学校へは行ってみる。

中にはたぶん

分かってくれてる子もいると思う

実は今日ね、私が帰っているとき

『おまえ、大丈夫か?

何にもできなくてごめんな。』

って声かけてくれた

クラスの男子がいるんだよね。

 

ミノリはちょっと嬉しそうでした。

 

なるほど!確かにそうだ!

全員が味方である

必要なんてない。

世の中、逆にそれが普通だし。

 

昨日は私が『味方だよ』と言葉で伝え

今日はその男の子が

『優しい言葉』をくれた。

 

そんな小さな味方の存在だけでも

人って驚くほど救われるものかもしれない。

  

ミノリは保護者会の様子がどうであれ

明日からも登校することに

もう決めていました。

 

 

卒業式まであと半年弱

冬休みを除けば、登校する日は

もうそれほどたくさんありませんが

この3か月後、ミノリには

【中学受験】という一大イベントが

ひかえています。

 

その日を安定した心の状態で迎えられるのか

私は内心とても心配でした。

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ミノリが決めた志望校

5年生の夏休みに

自宅から通える範囲の私立中学を

何校か見学に行った事がありました。

 

この頃にはもう

地元の公立中学へは進まず

私立中学を受験したいというミノリの気持ちは

すっかり固まっていました。

 

私自身は田舎町の平凡な家庭に育ち

当たり前のように

地元の公立中学へ進んだので

中学から私立へ行く】という選択は

ミノリが低学年のうちはまだ

頭の中に存在すらしていませんでした。

 

中学受験は

やらせるものではなく

やりたい人がやるもの

公立中学校に行ける権利があるのだから

子どもがよほど希望しない以上

わざわざ高い授業料を支払って

親の気持ちで行かせるべきではない

そんなイメージでした。

 

 

兄のタクには発達障害があり

成績も行動も、中学受験なんて

考えられない状況だったので

タクは迷うことなく

公立中学校に行かせました。

(これも今となっては正解とは言えませんが)

  

でもそのタクが通う公立中学校は

地元の中学校の中でも問題の多い学校

校舎も、制服のデザインもとても古く

ミノリにとっては

全く魅力を感じられない学校でした。

 

しかもその中学校には

今通っている小学校の子ども達が

全員そのまま上がることになります。

つまりあの主犯格の子ども達と

また同じ学校になってしまうのです。

 

だからミノリは

新しいスタートを切るためにも

絶対に私立中学に行きたい!

と決め、合格に向け

努力を重ねていきました。

 

そして私には

子どもが希望するのであれば

高額な受験費用や授業料を

何とかしてでも

行かせてあげたい

という親心が芽生えました。

 

そんなミノリが志望校に選んだのは

私立難関大学への継続校

 つまり中学受験で合格し入学すれば

そのまま大学まで進める権利がある

という中高大一貫校でした。

 

大学進学までが保証される

という事に加えて

自由な校風や充実した行事

制服の可愛さなどにも

大きな魅力を感じたようでした。

 

ただ難関大学への継続校

ということだけあって

偏差値も競争率も高い人気校です。

6年生の春に受けた模試結果では

合格圏内まであと一歩...

というところでした。

 

挑戦することに意味がある

とは言いますが

万が一の時、私は

うまくミノリの精神的な支えに

なれるだろうかと

正直、不安がありました。

 

受験するからには

合格させてあげたい。

努力には結果がついてくることを

実感させてあげたい。

そんなことは親なら誰もが思っていて

願えば叶う事ではない。

 

何が何でも私立中学へということならば

もう少し合格の可能性が高い学校を

選び直してもいいのではないか

 

万が一の時

またあの学級崩壊の場に

ミノリを通わせることなんて

私は絶対したくないと思いましたが

 

ミノリは結局最後まで

志望校を変えることはしませんでした。

 

 

ミノリらしさと母の涙

忘れもしない1月19日。

雪の降らない私たちが住むこの町にさえ

毎年、天気予報に

雪だるまのマークが付くことが多いこの日。

 

受験日の朝を迎えました。

 

 

相変わらず【学級崩壊】が続いている

ミノリの学校生活は

泣いて過ごす日もあれば早退する日もあり

 

それでも

この状況は良くないという事ぐらいは

もうすぐ中学生になろうかという

子ども達の大半は実は気付いていて

 

気付いていながら

みんな流されているんだ

という事に逆に気付いたミノリは

 

少しずつ増える小さな味方

笑って過ごせる時間を見つけ

2学期をなんとか

乗り切ることができました。

 

冬休みを経て3学期が始まりましたが

 

受験日の体調管理と

ミノリのメンタルを保つため

私は受験が終わるまでは

学校には行かせないことに決めました。

さすがのミノリも

これには納得していました。

 

試験日前日は

塾の先生に最後のエールをもらい

いつもどおりの夕食を食べ

いつも使ってきたノートを少しだけ見直し

早めに就寝しました。

特別な事はあえてしませんでした。

いつもどおりが一番だと思いました。

 

 

ちなみにその日までに

小学校からの連絡は

担任の先生を含め

一切ありませんでした。

 

 

当日の早朝4時

私はミノリにお弁当を作りました。

カツとかではなく

毎日食べていた

いつもどおりのお弁当にしました。

 

朝が苦手なミノリも

さすがにこの日はすぐに起きました。

目覚めたミノリの顔を見て 

私は無事にこの日の朝を迎えられたことに

本当にホッとしました。

 

1日限りの勝負、結果はどうであれ

体調万全で受験させてあげたかったから

起きてきた

もうそれだけで

泣きそうな気持ちになりました。

 

いつもどおりの朝ごはんを食べ

ミノリは毎日離すことがなかった

まとめノートや参考書、そして受験票を

カバンに入れました。

 

早朝5時半

私は面接用のスーツに着替え

ミノリのコートの両ポケットに

指先が冷えないように

おなかで温めておいたカイロを入れました。

 

よっしゃ!行こう!

私の気合いの呼びかけと同時に

ミノリは玄関の扉を開け

駅に向かい歩き出しました。

 

外はまだ人通りがほとんどありません。

薄暗く、空気は凍るように冷たくて

普段なら絶対に

「寒い寒い」と縮こまるのですが

私たちは

二人とも緊張のせいでハイ状態。

 

うわ~なんか気持ちいい~

こんな経験めったにできないね~

 

なんて言い合いながら

笑顔で歩いて行きました。

 

駅の改札をくぐりホームで待っていると

あちらこちらに

同じような雰囲気の親子が立っていました。

 

あぁみんな受験なんだな。

きっとどの親子にも

それぞれのドラマがある。

今ここに立っている

全員が合格できたらいいのにな。

 

綺麗ごとではなく、心底そう思いました。

 

 

志望校の校門をくぐると

応援旗を立てハチマキをしている

大手進学塾の先生がたくさん立っており

テレビで見たことがある

熱血的な応援風景を目にしました。

 

おおーこれが中学受験かー

と思わずキョロキョロしてしまいましたが

 

ミノリの塾は

そういうタイプの塾ではなかったので

小さな旗を手に持った先生がひとり

応援に来てくださっていて

試験場の入り口に向かって

『頑張れよ』と背中をポンッと

押してくださいました。

 

私はその入り口でミノリと別れました。

 

あまりにも普通に

じゃっ

と手を振り行ってしまったミノリ。

 

私は後ろからやや小さめの声で

頑張れぇーと言っただけでした。

 

不安でいつまでも離れられない子どもや

逆に離さない親の姿もありました。

正解も不正解もありません。

ここには敵も味方もありません。

 

それぞれの子ども達が

全力を出すことができれば

それでいいのだと思いました。

 

そしてミノリとのあっさりした別れが

なんだかすごくミノリらしいなと思えて

私はちょっと笑えてきました。

 

 

そこからミノリは4科目の試験を受けます。

途中お昼休憩もはさむため

5時間ほど、私は保護者控え室で

ひとりで座り待ちました。

 

試験開始のチャイムが鳴るたびに

 

ミノリ、頑張れ

ミノリ、頑張れ

 

と 頭の中で応援し

 

ミノリの様々な表情を思い出しては

目に涙が溜まり

鼻水が止まらなくなってしまうという

繰り返しの5時間でした。

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母子家庭の悔いなき挑戦

次にミノリと顔を合わせたのは

面接会場に案内されたときでした。

 

会場前の廊下に並べられていた椅子に

ミノリは先に来て座っていました。

 

たった数時間離れていただけなのに

すごく愛おしくて、すごく嬉しくて

私は満面の笑みで近づき

静かに隣に座りました。

 

決してどうだった?とは聞きません。

すごくすごく気になりますが

それは受験生に

絶対に聞いてはいけない言葉だと

塾の先生にしっかり言われていました。

 

お疲れ様。

とりあえずあとは面接だね。

 

私が小声で話しかけると

ミノリはとても緊張した様子で

無言でうなずきました。

 

周りを見ると、たいていの子は

お父さんとお母さんの3人で待機しています。

 

私はミノリに言いました。

 

私たちは2人だけだけどさ

この学校はそれを

マイナスに見るような学校でないし

正直に、笑顔で、目を見て

堂々といこう。いけるって!

 

ミノリは

緊張でさらに冷たくなった手を

グーパーグーパーしながら

3回ほど、小さくうなずきました。

 

母子家庭

正直それはマイナス要因なのかもしれません。

高額な授業料を支払い続けなければならないし

寄付もできません。

大手企業に勤めているわけでもないし

年収がすごくあるわけでもありません。

 

もしもこの学校がそこも評価するとしたら

私のせいでミノリの努力を

踏みにじってしまうかもしれない。

 

でも変えられない現実に悩んだり

過去を振り返り、悔むことが

とにかく嫌いな私は

 

母子家庭でも関係ないと言わせるほど

堂々と自信を持って挑もう

開き直っていました。

 

 

そして私たちは呼ばれ

ミノリが先頭に立ち

ドアをノックしました。

 

入るとそこには優しそうに微笑む

面接官の先生が2人座っていました。

 

私たちは練習どおり

前に置いてあるイスの横に立ち

『どうぞお座りください』

という指示を待ち、座りました。

 

緊張で手足が震えていましたが

作りものではない穏やかな笑顔で

私は面接を受ける事ができました。

 

さっきまで廊下で

不安そうにしていたミノリも

しっかりと、はっきりと

笑顔で質問に答えていきます。

 

なぜこの学校を受験したのですか?

どうやってここまで来ましたか?

入学したらやってみたいことは?

将来の夢はありますか?

 

そんな内容でした。

 

そんななか、

【将来の夢】という質問の想定は

していなかったので

どう答えるだろうと、私は思わず

ミノリの顔をチラッと見てしまいました。

 

少し考えたミノリは

こう言いました。

 

小説家か

学校の先生になりたいです。

 

え?!

私は思わず驚いた表情になってしまい

面接官の先生にも笑われてしまいました。

 

寝耳に水でした。

本を読んだり

お話を書くのが好きなミノリが

小説家というのは何となく分かります。

 

でも

あれほど学校で辛い思いをしたのに

学校の先生に?

 

不思議でした。

私なら絶対、学校の先生になんて

なりたくないと思ってしまう。

 

理由を聞かれ

ミノリはこう答えました。

 

小説家は、小説を書くのが好きなので

それが本になったらいいなと思いました。

学校の先生は・・・

私だったらもっと上手に

勉強を教えられるし

もっと生徒の気持ちを

分かってあげられると思うからです。

 

面接官の先生は

ホォーと声に出し微笑みました。

私もその言葉には納得で

思わず(そうそう)とばかりに

頷いてしまいました。

 

面接は終始和やかに進み

私への質問は

最後にひとつだけでした。

 

実は、私自身は面接について

あえてシミュレーションや練習を

してきませんでした。

 

当日、そのとおりに話そうとして

逆に緊張してしまうかと思ったことと

飾らず、その時思ったことを

正直に答えようと決めていたからでした。

 

保護者の方にお聞きします。

この学校に期待していることは

なんですか?

 

それが私への質問でした。

 

この場所が、娘にとって

生きていることをよかったと思えるような

場所であること。

この学校で得る笑顔と充実感のなかで

どんな事でもいいから

何かやりたい事を見つけ 

それに挑戦したいと思えたとき

全力で応援してもらえる環境を望みます。

 

ゆっくりと、そう答えました。

 

面接が終わり

校門を出る前に足を止め

私たちはふたりで

校舎を振り返りました。

 

この学校が

ミノリの学校になったらいいね。

 

私が言うと

ミノリは穏やかな笑顔で頷きました。

 

毎日この日のために

この日に全力を出せるようにするために

努力を続けてきたミノリ。

 

13歳のミノリを

抱きしめるのはもう照れ臭くて

背中をポンポン叩きながら

本当によく頑張った

ただそれだけを伝えました。

 

本日に悔いはなし!

そんな気持ちでした。

 

 

知らぬが仏かな

翌日の夕方4時

合格発表がありました。

 

校門をくぐった先に見える

校舎の壁に

合格者の受験番号が張り出されます。

 

30分ほど前に到着した私とミノリは

平静を保つように心がけても

落ち着かず

心臓のドキドキが止まりません。

 

もし、万が一・・・のときの対策も

もう何も頭にに浮かびません。

 

そして4時ちょうど。

発表の紙が貼られ始めました。

 

よしっ!見ておいで!

私はミノリの背中をポンッと押しました。

それと同時に走り出したミノリ。

 

その姿を目で追いながら

ふと発表の紙に視線を移すと

 

あっ!!

あった!!

ある!!ミノリの番号!!

 

見えてしまいました・・・。

 

ミノリから結果を聞こうと思っていたのに

知ってしまった・・・合格・・・

合格・・・合格!

合格だー!!!

 

ニヤける顔を必死で抑えていたら

ミノリが向こうから

タタタタッと走ってきて

 

あったああー!

と下から私を見上げて

ピョンピョン跳ねました。

 

え!!あったの?

ほんとに?

すごい!!

おめでとう!!!

(知ってたけど 笑)

 

すっかり日が暮れ始めた校舎脇の通路

私たち親子は

ふたりでピョンピョン跳ねました。

 

そこには

達成感とかそんな強い感情じゃなくて

喜びと安堵の混ざった

なんとも言えない

フワフワとした気持ちがありました。

 

あの日の、あの時の光景や感情を

私もミノリも

忘れることはないでしょう。

 

そしてその後

また同じ校舎脇のその通路

 

涙を我慢しながら歩く時

くるなんて・・・

 

その時の私たちには

想像もできませんでした。

 

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ここからの事は

次回に詳しく書きたいと思います。

 

最後まで読んでくださった方

ありがとうございました